不安を取り去り、行動を変えるセルフトークって

近年、セルフトーク(独り言)の効果に注目が集っています。独り言を変えるだけで行動が変わると聞くと、「怪しい」と感じてしまうかもしれません。しかし欧米などでの心理実験で効果が確認されています。手軽なので日常生活に取り入れてみませんか?

  • セルフトークの攻撃はパワハラ上司と同じ
  • ポジティブなセルフトークに変えるテクニック
  • 脳科学分野でも注目の三人称視点のセルフトーク
  • 三人称視点のセルフトークの作り方

セルフトークの攻撃はパワハラ上司と同じ

セルフトークの代表は、失敗した時などに思わず口にしてしまうネガティブなつぶやきでしょう。「いつもダメじゃん」「結局、いつもうまくいかない」「本当に使えない……」「どうして、こんなひどいことになったんだろう」などなど。自分を攻撃する内容は、容赦がありません。しかも、この種のセルフトークの特徴の一つは、何度も繰り返してしまうこと。

こうした言葉が自分の行動に影響を与えるのは当然だと思いませんか?
ちょっと想像してみましょう。
あなたをこき下ろす上司が常に近くに居て、失敗するたびに「おまえは本当に使えない」「どうして、こんなことになっているんだよ」と声を荒げてきたら、まともに仕事ができるでしょうか? しかも怒りが収まったと思ったら、ちょっとしたきっかけで、また自分への罵倒が始まるのです。

普通に考えればパワハラ案件ですし、こんな職場環境では業績も上がらないでしょう。
しかし無意識に繰り返すセルフトークは、職場のように誰かが止めることもなく、あなたを責め続けます。

これはツライですよね!

ポジティブなセルフトークに変えるテクニック

こうした自分への攻撃に代表されるネガティブなセルフトークを、ポジティブなものに変えてみましょう。

①セルフトークを確認する
まず自分のセルフトークを確認する必要があります。
自らの期待を裏切ってしまったときや、失敗してしまったときに、どんなセルフトークをするのかを観察して書き出してみましょう。上司に怒られたときに、「本当に自分は才能がないな」とつぶやいたり、資格試験の勉強に手を付けられなかったときに「やっぱりダメ人間だな」と話していたり、仕事を命じられるたびに「くだらない仕事だな」と口にしていたり……。意識して書き出すようにすると、意外と多くのセルフトークを収集できるでしょう。

②つぶやいたシチュエーションと内容を確認する
どんなシチュエーションで、何をつぶやいていたのかを確認します。するとネガティブなセルフトークを発しやすいシチューションと、実際のトーク内容がわかります。自分に一番ダメージを与えてそうなセルフトークを選び③~⑤の方法で、ポジティブなセルフトークに変えましょう。

③ポジティブに変えられる質問をつぶやく
セルフトークの原因となった出来事を、ポジティブにとらえられる質問を考えて、今後のセルフトークにしましょう。
例えば上司に怒られた失敗について、「そこから学べるものは何だろう?」と自分に語りかけてみます。気に食わない仕事について「くだらない」とつぶやく前に、「この仕事を自分にとって意義あるものにするためには、どうしたらいいんだろう?」と自分に語りかけます。

こうした質問を発することで、ネガティブな感情に飲み込まれることなく、困った状況に的確に対応できるようになるでしょう。

じつは自分に起こる出来事の多くは、自分が心配するほどひどいものではありません。くだらなさそうな仕事にも面白味を発見できたり、ひどい失敗でも人生すべてが終わることもありません。
ネガティブで感情的なセルフトークに巻き込まれなければ、よりよい捉え方が見つかる可能性も高いのです。

④相手の背景を考える質問をつぶやく
対人関係への不満からセルフトークをつぶやく場合は、相手の背景を思い描くようなセルフトークにすると、ネガティブさが消えていきます。

例えば「あいつは最低だ」というセルフトークを、「どうして、あんな態度を取ったんだろう?」に変えてみましょう。「あいつは最低だ」とつぶやくと、そこにあるのは怒りだけ。しかし相手の行動の背景に思いをはせると、状況を改善する方法を冷静に探せるようになるかも!

もしかすると自分をいつも怒らせる部下は、仕事にとまどっているだけかもしれません。あるいはプライベートで大きな問題を抱えているのかもしれません。そんなとき「いつもより元気ないけど大丈夫?」といった言葉をかけるだけで、自分のイラつきも相手の態度の問題も解決できるかもしれないのです。
ネガティブ感情を増幅させるセルトークを変えて、冷静に対処してみましょう。

⑤視点を変える質問を口にする
まったく別の視点から問題を捉え直せれば、ネガティブなセルフトークも止まります。

例えば仕事でミスをして、「もうダメだ」「仕事ができなくて最低だ」といったセルフトークをつぶやいていたら、まず失敗について考えることを、いったん止めます。その上で視野を広げたり、別のポイントに光をあてる質問を自分に投げかけるようにしましょう。

「そもそも、この仕事は何のためにしている?」「連携している隣の部署は何を担当しているの?」
こんな質問から自分の仕事の意義を再認識できれば、どんなことに注意すればいいのか、もっと力を入れるべきポイントが何かがわかるかもしれません。その上で失敗を繰り返さないように対策を立てるといったこともできるでしょう。

視点を変える質問はなかなか難しいのですが、意外に重要なポイントを見つけることもあるので、チャレンジしてみてください。

脳科学分野でも注目の三人称視点のセルフトーク

セルフトークの研究で脳科学の分野からも注目を集めているのが、三人称視点でのセルフトークです。当たり前ですが自分を攻撃するセルフトークは一人称です。日本語は主語が省かれるケースも多いのですが、「ほんとうにダメだな」とつぶやいたときは、「私は」「自分は」「俺は」といった一人称が隠れています。

こうしたセルフトークを反芻することで、ネガティブ感情の渦に巻き込まれてしまうのです。しかし、このセルトークを三人称や自分の名前に変えるだけで、劇的にマイナス感情が収まると、ミシガン大学の研究チームが発表しています。

これは自分の名前で呼びかけることで、物事が客観的に見えるようになったからだと説明されています。

三人称視点のセルフトークの作り方

不安などネガティブな感情に巻き込まれそうなときに、三人称視点のセルフトークを活用すると、高い効果があります。ただ、三人称の代表である「彼」「彼女」でセルフトークをつくるのは難しいので、自分の名前で呼びかけるといいでしょう。例えば「田中」や「太郎」といった呼び捨てや、「田中さん」「田中君」「太郎君」といった形で、セルフトークに入れてみてください。

他人を説得しているような形で文言をつくれたら成功です。これが三人称の視点です。「私」が主語だと、このような客観性を持つことが難しくなります。

例えば、重要なプレゼンの前に緊張してきたとしましょう。そのとき、次のようなセルトークをつぶやきます。

「①〇〇(自分の名前)緊張しているの? でも、初めてのプレゼンでもないでしょう。
②これまでに何度も同じような体験をしているし、いつも乗り切ってきた。そもそもちょっとした言い間違いがマイナスになるわけでもないでしょう。むしろ流暢過ぎると、相手の印象に残らないこともあるし。
③準備にかなり時間をかけたし、もともと分析は得意だから、そんなに焦る必要ない。落ち着いて〇〇(自分の名前)」

もしかすると、セルフトークの長さに驚いたかもしれませんね。自分を説得する独り言です。

このセルトークは次の3つのポイントから成り立っています。

①自分の名前を呼んで落ち着かせる
まず、第三者が自分に呼び掛けている場面を想像して、感情に流されている自分の頭を、少しさましましょう。

②乗り越えられた過去を示す
緊張しても乗り越えられた過去を示すことで、現在の状況は極度に緊張する必要がないことを思い出させます。

③自己肯定感を高める
今の状況をプラスにとらえ、自身の価値もプラスになるよう声掛けをします。

この3つのポイントを抑えてセルトークを組み、携帯のメモなどに残しておいて、必要なときに眺めるのはお勧めです。不安だけではなく、何かを怠けたくなったときや、ダイエットなど我慢が必要な習慣を投げ出したくなったときにも活用できます。

今日はセルフトークの活用法についてまとめました。

一人でうまくいかないときは、ここをクリックしてより専門的な知識を学ぶのもお勧めです。

監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会

参考:「The Voice of Reason」( Pamela Weintraub/Psychology Today)/『理想の自分をつくる セルフトーク・マネジメント入門』(鈴木義幸/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

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