新しい仕事を与えられたり、仕事のやり方を変えるよう指示されたりしたとき、あなたはどう感じますか。「私にはできる」と思えることが、実際に成果へつながるとする自己効力感(セルフ・エフィカシー)について解説します。
- 自己効力感とは、「自分はこのようなことがここまでできる」という考えのこと
- 自己効力感の高さはモチベーションや成果に影響する
- 内から―自身の自己効力感を高める方法
- 外から―組織内の体制や文化も構成員の自己効力感に影響する
- 内から外から、自己効力感を高めよう
自己効力感とは、「自分はこのようなことがここまでできる」という考えのこと
自己効力感とは、「セルフ・エフィカシー」の日本語訳で、カナダの心理学者アルバート・バンデューラによって提唱された考え方です。ある課題が与えられたとき、または「これをやりたい」と思ったとき、どの程度「自分にはこのようなことが、ここまでできる」と感じられるかを指します。「遂行可能感」と言い換えてもいいでしょう。
例えば、運転免許を取りたての人が二人いるとしましょう。一人は自己効力感が低く、もう一人は高い人です。「高速道路を運転して、100キロ先の目的地へ行く」という課題を与えられたとき、自己効力感の低い人は「自分には、そのようなことは到底できない」と考えます。対して、高い人は「自分にはそれができるだろう」と考えます。
自己効力感は、運転の例でいえば運転能力によって変化することもあれば、スキルや経験の獲得によって変化することもあります。例えば、免許を取りたてのときは運転に対する自己効力感が低かった人も、運転に慣れてくれば「高速道路で100キロ先の目的地へ行くなんて、余裕でできる」と考えられるようになるかもしれません。
自己効力感の強度は、場面によっても違います。当たり前の話ではありますが、人によって得手不得手がありますから、ある分野で高い自己効力感を持ちえたとしても、違う分野では自己効力感が低くなってしまう場合があり得ます。ここからは、あくまで個々人に与えられた仕事に対する自己効力感について触れてゆくことにしましょう。
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自己効力感の高さはモチベーションや成果に影響する
仕事に対する自己効力感の強度は、人によって違います。バンデューラらの心理実験により、自己効力感が高い人ほど大きな課題にチャレンジしようとする強い気持ちがあり、また達成する確率が高いことが知られています。自分の仕事に関する成果を上げようと思ったら、自己効力感をアップさせることが重要です。
では、どうすれば自己効力感を高めることができるのでしょうか。自分が内面から変化する方法と、組織文化や体制を変える方法の2つがあります。
内から―自身の自己効力感を高める方法
北海道医療大学の坂野雄二教授は、『セルフ・エフィカシーの臨床心理学』のなかで、自己効力感の変化にとって必要な4要素を次のように挙げています。
1、振る舞いを実際に行ない、成功体験を持つこと(遂行行動の達成)
2、他人の行動を観察すること(代理的経験)
3、自己強化や他者からの説得的な暗示(言語的説得)
4、生理的な反応の変化を体験してみること(情動的喚起)
引用元:『セルフ・エフィカシーの臨床心理学』
つまり、①実際に行動して「できた」という体験を積み重ね、②他者の成功例や失敗例を参考にして「こうすればできるようになるのか」「これなら自分でもできそうだ」と感じ、③「私ならできる」と思い、また「あなたならできる」と言われることが重要ということです。加えて、④「できそう」「できないかも……」といった自分の気持ちの変化を知ることも、大切になってきます。
仕事の現場に照らし合わせれば、①できそうなことから始めて自信をつけ、②同僚や上司の経験から学び、③自分や周囲の励ましによって気分を高めることが重要ということです。これなら、日常的にやっているという人も多そうですね。
しかし、④自分の気持ちの変化に敏感になるということについては、あまり意識していなかったという人もいることでしょう。モチベーションが出ない、成果が表れないと悩むときは、「自分はこの仕事を遂行する能力があると思っているか?」「思っていないとしたら、何がネックなんだろう?」「どうすればできると思えるだろうか」と自問自答してみましょう。
外から―組織内の体制や文化も構成員の自己効力感に影響する
組織構造や管理方式を変えることで、組織メンバーの自己効力感が高まることが指摘されています。質の高い看護を行う病院を「マグネット病院」と呼びますが、こういった病院では、職務ストレスが低く、モチベーションが高く、ケアの質も高いことが知られています。つまり看護師の自己効力感が高いことが推測されるのです。
マグネット病院に共通している、看護師にとって重要な組織構造の特徴は、以下の3つです。
①自分の専門的判断に基づいてタイムリーに適切な処置・対応ができる権限と責任があるのか。
②質の高い看護をするために必要な資源(ほかの看護師や介護士などの要員、機械、器具、資金など)を看護師自身がコントロールできる権限と責任があるのか。
③患者のケアを最適化するために医師と協働できる権限と責任があるのか。
(引用元:『人と組織を変える自己効力』林伸二、同文館出版)
これら3つの組織構造特徴が強くなるほど、看護師の心身の疲労感がなくなり、職務満足と患者のケアの質が向上することがわかっています。また、マグネット病院に共通している組織文化として「患者第一主義」があることも、研究によって判明しました。
病院と一般的な組織の間にはさまざまな違いがありますが、組織全体の自己効力感を高めたいと思ったときには、参考になる考え方です。社員らが、まずは会社の利益ではなく顧客の方を向き、最高のサービスをするための権限や責任を与えられている。そんな環境になっているでしょうか。
内から外から、自己効力感を高めよう
以上のように、自己効力感を高めるには、自分自身の経験値を上げたり人の経験から学んだりすることが重要であり、また職場の文化や組織体制の変革が必要な場合もあります。社員一人で職場の文化を変えるのは難しいので、まずは自分でできることから始めてみませんか。
モチベーションが足りない、成果が出ない……そう感じたら、自分の至らなさを責めるのではなく、自己効力感をアップさせる方法を考えましょう。「やればできる」と感じられることが、成功の第一歩です。
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参考:『セルフ・エフィカシーの臨床心理学』坂野雄二ほか編著、北大路書房/『人と組織を変える自己効力』林伸二、同文館出版