「母親なら」と声をあげた「ポテサラおじさん」の寂しい心の内って?

先月「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と言った高齢者に出会ったというツイートが大きな話題となりました。そうした言動への嫌悪感が数多くツイートされました。そこで、どうして高齢者がそのようなことを言ったのか心理学的に解説したいと思います。

  • 「手作り」の価値が高いというバイアス
  • 高齢者の考えた「母親」の役割
  • 高齢者が負っていた「役割」は?

「手作り」の価値が高いというバイアス

先月、大きな話題となったツイートは、以下のようなものでした(一部抜粋)。

「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」の声に驚いて振り向くと、惣菜コーナーで高齢の男性と、幼児連れの女性。男性はサッサと立ち去ったけど、女性は惣菜パックを手にして俯いたまま。(みつばち @mitsu_bachi_bee)

年齢は明らかになっていませんが、70代ぐらいの男性と、幼児連れということから20代から30代前半ぐらいの方の出来事だったと想像できます。

このツイートで心が痛むのは、女性が「俯いたまま」だったことです。そこには、この女性が感じる必要のない「罪悪感」があったのではないかと思われます。

高齢者が声を荒げ、女性がうつむいた理由の1つは「手作り」という問題があったのではないでしょうか。

これは幼稚園で母親たちが「手作り」を命じられる通園グッズに関連しても、たびたび問題になっています。どうも「手間ひまをかけることはお母さんの愛情の証」だという意識がけっこう広まっているようなのです。

この意識の是非はいろいろあってもいいと思うのですが、心理学的には「イケア効果」と呼ばれる、一種のバイアス(偏った考え方)が知られています。

イケアはスウェーデンの家具販売会社であり、組み立てを自分でやるシステムが有名です。そして「イケア効果」とは、製品に自分で手を加えることで、価値が高まると感じてしまう心理的な効果です。

この現象はマーケティングの世界でも活用されています。最も有名な事例の一つが、水を混ぜて焼くだけというケーキミックスを、卵と牛乳とオイルを加えて焼く方式に変更したら売上げがあがったという例でしょう。卵と牛乳とオイルの成分を抜いて販売した方が売れたというのですから、ちょっと不思議な現象です。

手作りには思いがこもるという考え方には反対しませんが、手作りを強調する背後には「イケア効果」と似たバイアスが働いている可能性があることは、知っておいた方がいいかもしれません。

高齢者の考えた「母親」の役割

この高齢者が「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と声を荒げたのには、「手作り」への強い思いだったのでしょうか。そうではなく、彼が強調したかったのは「母親なら」という部分だったのでしょう。

このことは心理学の「役割期待」で説明ができます。

そもそも人は他人に何らかの役割を期待しています。しかも人は他人を分類する傾向があるためツイッターの高齢者は女性を「母親」と分類し、「母親」としての役割を自分勝手に期待したのでしょう。

そして高齢者が考える「母親」の役割の一つが、ポテトサラダを「手作り」することだったのです。これが余計なお世話だという前に、そもそも彼の考える役割を支える社会が、大きく変わってしまったという問題があります。

70代の男性が働き盛りであったであろう1980年、専業主婦の世帯は1100万世帯以上あり、共働き世帯は614万世帯でした。それが2019年には、専業主婦は600万世帯を切り、共働き世帯は1200万世帯を超えています。状況は完全に逆転しているのです。

それだけではありません。仕事の密度が濃くなっている可能性があります。筆者が大手企業の上層部に取材したとき、「ここ20年で人員は大幅に減ったが、売り上げは何倍にもなっているので、事実上、限界まで労働強化をしたことになります」といった声を聞きました。

仕事の密度を数値化することは難しいのですが、ビジネスのスピードや仕事量が増えているのは多く人が感じているのではないでしょうか。

そのうえ子育ても、高齢者が子育てをしていた時代よりはるかに手間がかかるようになっているようなのです。

昭和40年代生まれの筆者は、小学校から帰ればいつも外に遊びに行き、ときに友達の家を訪ねました。それでも友人宅に渡すお菓子を持たされることも、小学校入学後に送り迎えしている大人に会うこともありませんでした。つまり勝手に遊びまわっていたのです。今では信じられない光景かもしれんません。当然、子どもに対する防犯意識は、現在と比べてかなり低かったのではないでしょうか。

このように時代の一部を切り取っただけでも、「母親」の役割が高齢者の思いと違ってきていることがわかります。現在、毎日ヘトヘトになりながら子育てをしている母親」が少なくないのです。

高齢者が負っていた「役割」は?

さまざまな役割の変化に対するいら立ちが、高齢者が声を荒げた原因の一つかもしれません。しかしよくよく考えれば、この高齢者を取り巻く環境もさらに悲劇的な状況かもしれないのです。

役割期待は他人に対する期待なので、この高齢者も他人からの役割期待を負って生活しています。
では、「母親なら」と声をあげた高齢者は、「父親」としては(もちろん子を持つ既婚者かどうかはわかりませんが)、どんな役割期待を背負っているのでしょうか?

2016年、マクロミルが15~59歳の男女1258人に実施したアンケート調査によれば、「父親に期待する役割」のベスト3は以下の通りです。

1.精神的な支え
2.金銭面での援助
3.どんな役割も期待しない

他人にいきなり声を荒げる男性が、どれだけ子どもの精神的な支えになっているのかは少し疑問です。そして結局はお金しか期待されていないのではないかとしたら、寂しい思いを抱いている可能性もあります。

加えて高齢者の悲しい心情を感じざるを得ないのは、同じアンケート調査の「父親自身に期待すること」という設問です。
結果は以下の通りです。

1.イキイキと生活していること
2.幸せでいること
3.生活費を稼ぐこと
4.人として尊敬できること
5.母親と仲良くすること

「役割期待」は互いにズレることがあります。それを解消するためにコミュニケーションが求められるのです。つまりお互いが強い役割期待を持っているなら、それをカバーできるだけのコミュニケーションが人間関係には必要になるのです。しかし見ず知らずの人にいきなり声を荒げてしまうようだと、上記の期待に沿えているのかも、コミュニケーション能力にも疑問を感じてしまいます。

ツイッターがこれだけ話題になったのは、切れる中高年に似た高齢者の行動が目に余ったからではないでしょうか。
高度成長期からバブル時代の価値観を大切にするあまり、見知らぬ他人に勝手な役割を期待し、世代間のギャップにイラつく。そんな中高年の姿勢にゲンナリしている人が少なくないのかもしれません。

中高年男性だからこそ、世間が期待する「イキイキと生活」し、他人にイラつかないぐらい「幸せ」であるためにどうすればいいのかを、しっかり考える必要がありそうです。もちろん自戒を込めてなのですが……。

より良いコミュニケーションの方法ついてもっと知りたい方は、こちらもご覧ください。

参考:『それでいい』(細川貂々・水島広子/創元社)/「父親に期待する役割1位は『精神的な支え』」(マイクロミル)/「イケア効果」(働き方改革研究所)

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