増え続ける「いじめ」を止めるためにできることって?

大人・子ども関係なく、さまざまな集団でいじめが発生しています。そのようないじめの中には、世界的に見ても珍しい傾向のいじめがあったりします。日本社会に広がるいじめのメカニズムと対策についてまとめてみました。

  • 増え続ける日本のいじめ
  • いじめの原因は「愛情ホルモン」
  • 日本だけが持ついじめの傾向って?
  • 関係を薄めていじめをなくす

増え続ける日本のいじめ

厚生労働省によれば、業務上のストレスなどで精神疾患にかかり、2019年度に労災申請した人は2060人となりました。その原因として最も多かったのが、嫌がらせ、いじめ、暴行といったパワーハラスメントを原因とする精神疾患です。

子どものいじめも状況は深刻です。

2019年10月に文部科学省が発表した2018年度のいじめの件数は約54万4000件で、前年度と比べて31%増加となりました。児童生徒1000人当たりの件数は、40.9件でこれも前年と比べ10件も増えています。

過去5年間のいじめの傾向を分析すると、小学校のいじめが大幅に増加していることがわかります。2013年度は11万8748件だったのが、2018年度には42万5844件と3.5倍以上の伸び率になっているのです。

これは生徒・児童がいじめを報告するようになり、学校側も隠ぺいすることなく報告するようになったという環境の変化も影響していると思われます。そうだとしても、けっして放っておいていい問題ではないでしょう。

いじめの原因は「愛情ホルモン」

いじめが起きる根本的な原因について、脳科学者の中野信子氏は愛情ホルモンの「オキシトシン」が関係していると、次のように解説しています。

オキシトシンは、その性質から「愛情ホルモン」とも呼ばれ、脳に愛情を感じさせたり、親近感を感じさせる、いわば人間関係を作るホルモンです。

じつはオキシトシンは授乳や出産で活躍するホルモンとして知られています。しかし男女を問わず、スキンシップや目を見て話をしたり、誰かと同じ空間に長くいるだけでもオキシトシンが分泌されることがわかっています。

オキシトシンは相手への信頼感や安心感を生み出しますし、ストレスの緩和にも働きますので、一見、いじめとは逆の働きのように感じます。しかしそもそもいじめは、仲間意識が高い中で起こるそうです。誰もがバラバラ、違っていて当たり前といった状況では、ひがみや自分たちと違うものを排除する「排外感情」が起こりにくいためでしょう。

ヒトは他人との協力関係によって、自然界での優位性を築いてきました。猛獣のように早く走ることもできず、鋭い牙や爪を持たないため、道具を使い、仲間と協力することで、猛獣を狩れるようになったのです。

そのためヒトは集団で協力したくなる仕組みを備えています。育児を育む女性ホルモン「エストロゲン」が出産を機に急激に減っていくことで、母親は不安や孤独を感じます。どうしてこのような心理になるのかといえば、「みんなで協力して子育てをする」という行動に誘導するためです。

オキシトシンは仲間意識を高めます。だからこそ仲間に協力しない人を攻撃し、集団から排除するよう促す力も持っているのです。

そして、どうやら日本人は集団と同じように行動しない人たちへの攻撃性が、世界的に見ても高いようなのです。

日本だけが持ついじめの傾向って?

どんな子どもがいじめの対象になりやすいのかを経済協力開発機構(OECD)が調査したところ、一般的には貧しくて身なりがよくない子や勉強ができない子がいじめられやすい傾向にありました。

ところが、インドネシアやマルタ、モロッコ、日本では富裕層がいじめの対象になっていたのです。さらに成績についても、日本と韓国だけができる子どもがいじめられる傾向にありました。つまり裕福で勉強ができる子どもがいじめられる社会は、この調査で日本だけだったのです。

必ずしも社会的な弱者ではなく、少数派がいじめに遭うという日本社会の傾向は、より良く成長してもいじめの対象になるという問題を抱えてしまうようです。

関係を薄めていじめをなくす

このような日本社会において、どうすればいじめを回避できるのかについて、中野信子氏は

仲間意識が強すぎるから関係が濃すぎるからこそ起こってしまういじめは、人間関係を薄めて風通しをよくすることが有効です。

と書いています。

苦手な人とは無理に仲良くするのではなく、適度な距離を保ち、お互いに傷付合わないようにする。あるいは集団を強く意識するような状態を減らすことで集団への帰属意識を下げ、同時に排除しようという意識も下げていくことが有効とのことです。

学校では、習熟度別のクラス替えや席替えなどで集団に変化を与えてると、いじめは少なくなると指摘しています。

これまで「全員一丸となって」といった方針で仲間意識を高めてきた日本社会ですが、個人の自由度を尊重する集団のあり方も模索する必要があるのかもしれません。

いじめなど組織の心理的な問題に興味のある方は、こちらもご覧ください。

参考:『ヒトは「いじめ」をやめられない』(中野信子/小学館)

関連記事

大相撲・中川部屋を閉鎖させた弟子への暴力はなぜ起きた?... 大相撲の中川親方が3人の弟子に暴力をふるったとして、中川部屋が閉鎖されました。相撲界で繰り返される暴力を伴う不祥事はどうして起きるのでしょうか?その原因を心理学的に解説します。 暴力沙汰が問題になり続ける相撲界暴力指導の奥にある2つの思想暴力的な指導は次世代に受け継がれるスポーツ界の...
オリンピック開会式を揺るがした「いじめ問題」が抱える2つの疑問点... 東京オリンピック・パラリンピックの開会式で楽曲の担当だった小山田圭吾氏が、過去のいじめ問題で辞任しました。この問題を心理学的に考えると、どのように解釈できるのでしょうか?関連の文献を調べてみました。 「悪」がもたらす優越感 東京オリンピック・パラリンピックの開幕直前の辞任は、各...
いじめられた子どもを救うために大人ができること... いじめに悩む子どもは少なくありません。その一方で、大人がどんな援助をできるのかに、頭を悩ませてしまう人もいることでしょう。大人にいじめの相談をしない子ども多いからです。子どもをいじめから救うための方法をまとめてみました。 子どもの3割は相談しない相談の訓練も必要相談を受けたときのNG...
最近、雑談してますか?新型コロナでやりにくくなるコミュニケーションとは... 雑談の効力を知っていますか?仕事の効率を下げるようにしか見えない雑談ですが、ビジネスでは大きな力を発揮することがわかっています。その効力とテレワークの関係について説明しましょう。 組織を強化し、評価を上げる雑談の効果を高める3つの方法新型コロナ禍でどうやって雑談?「なんか会社に活気が...
人だけでなく組織も成長させるマインドセットの秘密って?... 「マインドセット」という言葉を知っていますか?考え方のクセのことです。そしてマインドセットには成長を促すタイプがあり、それは個人だけではなく組織にも当てはまることがわかっています。今日は組織のマインドセットについて説明します。 無理だと考えるから成長しないマインドセット別の組織の特徴...

働く人の心ラボは、働く人なら知っておきたい『心の仕組み』を解説するサイト。
すぐに応用できる心理学の知識が満載の記事を配信しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です