自分や組織に変化を起こすために重要なポイント

自分や組織を変えることは容易ではありません。ただ、変化を促す要素はさまざまに研究されています。そこで、どうすれば変化が起きるのかをまとめてみました。

  • 「希望」を作り出す
  • 成果の見える化
  • 「小さな成功」選択のポイント

「希望」を作り出す

スタンフォード大学のチップ・ハース教授が書いた書籍『スイッチ! 〔新版〕― 「変われない」を変える方法』には、変化には「希望」が重要であり、特に変化に向けた動きの初期段階では、「希望」をつくり上げることが最初の仕事だと指摘しています。

この話に納得する人も多いでしょう。決まりきった日常から脱しようすれば、それなりの労力が必要です。それでも行動を起こそうと思えるのは、そこに「希望」があるからでしょう。
しかも「希望」はメンタルヘルスにプラスに働くことがよく知られています。絶望感を軽減し、回復力や楽観性を高め、未来をポジティブにとらえる傾向が強まることは、過去の研究でも指摘されています。

ただ、この「希望」をつくるのが簡単ではありません。

というのも現実に何も得ていなくても、明るい未来の可能性を信じられるのが「希望」だからです。実際、「希望」を抱ける状況は、人によって変わります。ものすごく悪い環境で「希望」を持てる人もいれば、一般的には恵まれているように見える状況でも「希望」を見いだせない人もいます。

それでも「希望」が持てるようになる要素が、いくつか明らかになっているので紹介しておきましょう。

① ビジョンと目標
「希望」には、こうなりたい、こんなふうにしたいと思えるビジョンと、そのビジョンを実現するための目標が重要だといわれています。

これはわかりやすい話でしょう。
スポーツだと全国大会出場というビジョンがあり、それを実現するための目標が設定され、練習が組まれていれば、「希望」を持ちやすくなります。もちろん一流の監督や設備、実力を持ったチームメイトがいれば、全国大会出場のビジョンの実現をより信じることができるかもしれません。ただ、いくら恵まれた環境がそろっていても、ビジョンや目標がなければ「希望」は生まれにくいもの。
例えば筋トレための設備があっても、全国体出場といったビジョンや目標がなければ積極的に使う人はいないでしょう。そして目標やビジョンなく、何となくスポーツをしている人が、スポーツを通して大きな「希望」を持つことは難しいでしょう。

② 安全な基盤
変化に必要な「希望」は未来への前向きな気持ちを表したものであり、それは果敢な挑戦を含むものです。そして成長や発展を願う「希望」に必要なのが、安全な基盤だという指摘があります。というのも安全な基盤は登山のベースキャンプのようなもので、登頂が無理だと判断したときに戻れる場所となるからです。

たしかに失敗したら、どうなるだろうと思うと人は挑戦しなくなるでしょう。Googleがチームの生産性を高めるうえで最も重要な要素として発表した「心理的安全性」(自分の意見や疑問を周りに伝えることに恐怖感を抱かない心理状態)が高いチームでは、挑戦への意欲が高まるといわれています。

明日はもっとよくなる、自分でもっと改善していけると思えるような「希望」は、安全な基盤があるからこそ生まれてくるのでしょう。

③ 「小さな成功」
「希望」を持てるようになるための訓練として、米国にあるポリテニック州立大学のアーレン・ドーハティ博士が勧めているのが、「小さな成功」の積み重ねです。「小さな成功」から生まれた自信が積み上がることで、自身の未来への信頼を生み出し、「希望」を抱けるようになるそうです。

成果の見える化

変化が軌道に乗り、少しずつ成果が見えるようになったときは、進歩を見えるようにすることが大切だ、と『スイッチ! 〔新版〕― 「変われない」を変える方法』には書かれています。

ゲームに夢中になってしまう要素の一つに、行動の結果がすぐにフィードバックされるという特徴があります。こうした人間の心理的傾向を活用しましょう。

成果の見える化を簡単だと感じる人もいるでしょう。確かにダイエットなど日々成果の見えるチャレンジなら難しくはないでしょうが、「新商品のイノベーション」といった簡単にはマイルストーンを示せない挑戦もあるはずです。

こうしたときに有効なのが「ミラクルスケール」です。これは最終地点である「奇跡」を10として、0~10の間で自分の現在地を考えるもの。
例えば、これまでにない工作機械をつくろうとしたとき、新商品のビジョンが全く思いついていなくても、実際に使うであろう製造現場の聞き取り調査が終わったなら、ミラクルスケールで「1」に到達しているかもしれません。

客観的な数値が設定しにくい目標に対して、自分なりの評価基準で考えられれば、変化に向けて動き続けられる可能性が高まるでしょう。またミラクルスケールを持てば、次にどこに向かうのかがわかり、同時に「小さな成功」を重ねて前に進み続けることで自信もつくようになると『スイッチ! 〔新版〕― 「変われない」を変える方法』は書いています。

「希望」を持つための要素として、「小さな成功」が重要なことはすでに触れましたが、変化に向けて動くためにも、「小さな成功」をしっかり認識することが必要なのです。

「小さな成功」選択のポイント

さて、マイルストーンにもなる「小さな成功」にも、選び方のポイントがあります。それは「意義あること」と「手が届くこと」の2つ。しかも両方の条件を満たすことが難しいときは、「手が届くこと」を優先すべきと書かれています。

さらに「小さな成功」を設定するときには、行動をあいまいにしないことが大切だそうです。例えば「経費をコストカットする」といったようなことを目標にしたとき、何をしたらいいのかわからないといったことが起こりがちです。

「そもそも何がムダなのかがわからない」「どの分野にムダがあるのかわからない」「ムダのある場所を知っていても、どう処理していいのかわからない」。こうした内容を知らないと、手の届く「小さな成功」かどうかもわかりません。

例えば、消耗品をコストカットする必要があるとわかっているなら、販売店に問い合わせて値段の比較が必要だとわかります。またリースについて検討が必要だとわかれば、契約状況を確認すべきだと理解できます。

実際に行動を起こすときに、必要なピースが欠けていると思うなら、しっかりと調べて「小さな成功」を設定するようにしましょう。目標到達の道筋がなるべくハッキリわかるようにしておくことが大切です。

今日は変化を起こすために必要な項目を、『スイッチ! 〔新版〕― 「変われない」を変える方法』から拾い解説してみました。自分が停滞していると感じた人は、自分に何が足りないのかを考える材料になるかもしれませんね。

自分の心のあり方に興味のある方は、こちらもご覧ください。

監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会

参考:『スイッチ! 〔新版〕― 「変われない」を変える方法』(チップ・ハース ダン・ハース/早川書房)/「How basic neuroscience can help you increase your capacity for hope」(Alane K. Daugherty/Psychology Today)

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