嫌なことは言われたくないし、言いたくもない。それは当たり前のことなのではないでしょうか。しかしビジネスでは、いきなり怒りをぶつける担当者に翻弄されたり、降格や取引の停止を言い渡したり言われることもあるでしょう。そんなストレスを伴う難しいコミュニケーションの適切な対処法を紹介します。
- ストレスになるコミュニケーションは3つの方法で対処
- 誤解を与えたことを認めて訂正する
ストレスになるコミュニケーションは3つの方法で対処
ハーバード大学ラドクリフカレッジで教えているホリー・ウィークス氏は、126の先行研究から、当惑や混乱、不安、怒り、恐怖といった感情を自分自身や相手に与えるコミュニケーションを「ストレス・コミュニケーション」と呼び、その対策をまとめています。
重要なのは、自分が不安を感じるときだけではなく、相手に恐怖を抱かせてしまうタイプのコミュニケーションにも有効だということです。つまり、ちょっと言いにくいネガティブな話にも、相手が怒りをぶつけてきた場合にも、どちらにも有効な対処法なのです。
対処法には「明確化」「中立性」「自制」という3つの柱があります。
1つずつ解説していきましょう。
①明確化
婉曲な言い回しや持って回った表現を避けて、内容を明確に伝える必要があります。仕事を回せないこと、予算が削減されたこと、昇進できないことなどなど。ついあいまいな表現をしたくなりますが、互いに不安を抱く「ストレス・コミュニケーション」だからこそ内容は明確に伝える必要があります。
例えば「まあ未定だけど、かんばしくないかも」といった表現は、相手に誤解と期待を与えかねません。こうした先延ばしのコミュニケ―ションは避けた方がいいようです。
それでも言いにくいという方には、ホリー・ウィークス氏の次の言葉を思い出してください。
実際、内容を明確化することは、重荷を増すどころか、相手の肩の荷を軽減する行為なのだ(『コミュニケーションの教科書』 第9章ストレス・コミュニケーションの対処法」)
②中立性
言葉だけではなく、態度の中立を維持し続けることを、ホリー・ウィークス氏は推奨しています。常に変わらない平静さを維持するのは結構難しいものです。しかし相手の怒りに反応せずに、中立の立場でいようと決意するだけでも、「ストレス・コミュニケーション」の結果はかなり変わってきます。
③抑制した表現
「ストレス・コミュニケーション」の対処法は、相手を打ち負かしたり、敵対することなく、しっかりと情報を交換することを目的としています。だからこそ「売り言葉に買い言葉」といったコミュニケーションは厳禁です。
具体的な言葉はなかなか難しいのですが、クレーマー対策で有効な「D言葉」を「S言葉」に変える方法を紹介しましょう。
D言葉とは、「ですから」「だって」「でも」を指します。怒りをぶつけられると、ついつい口にしたくなりますが、「ですから」は上から目線の言葉ですし、「だって」は逃げ腰、「でも」はやや反抗的な態度を示します。そのため、この3つの言葉は相手の怒りに火をつけてしまう可能性があるのです。
そこで、
「ですから」→「失礼いたしました」
「だって」→「承知いたしました」
「でも」→「すみません」
と言い換えて改めて説明すれば、問題は拡大することなく、収まる可能性は高まります。
また感情ではなく、情報を伝えることも有効です。
相手から怒りをぶつけられると、ついこちらも感情をぶつけたくなりますが、そこをぐっとこらえて情報をしっかりと伝えるようにすれば、無用な争いを避けることができます。
誤解を与えたことを認めて訂正する
ホリー・ウィークス氏は、「ストレス・コミュニケーション」の3つの対処法に加えて、いくつかのテクニックを紹介しているのですが、ここではその中から1つだけ紹介しましょう。「明確化の技術」と呼ばれるものです。
これは非常にシンプル方法で、相手の誤解などによって生じた内容を認めて訂正することです。そのとき誤解の内容に踏み込んで言い訳や反論をしないことが重要です。
例えば、「それって、私がバカだってことですか?」などと言われたときに、「どこがバカにしてたと感じたんですか?」などと返答すれば、怒りの泥沼にはまってしまいます。
「すみません。そんなつもりで言ったのではないんです」と言い、改めて本題の説明に入ればいいのです。
感情の応酬にならないためには、とても役立つスキルでしょう。
現在、さまざまな不安からイライラが募りやすい状況です。「ストレス・コミュニケーション」の基礎を頭に置いて、理不尽なコミュニケーションに巻き込まれないようにしたいですね。
さらに実践的なコミュニケーションについて学びたい方は、こちらをご覧ください。
参考:『コミュニケーションの教科書』(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編/ダイヤモンド社)/『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』(援川聡 著/ダイヤモンド社)