あなたは性善説と性悪説、どちらを信じていますか? サイコパスなど、近年はもともと性格がねじ曲がっている人が話題になったりしますが、じつは環境も人の行動に大きな影響を与えることがわかっています。そこで悪事をしにくい環境についてまとめました。
- ①死について考える
- ②幽霊や神様を意識する
- ③明るい場所で
①死について考える
善い行いをしたいと思うのは、どんなときかについては心理学でわかっていることがあります。それは「スクルージ効果」というもの。これはチャールズ・ディケンズの有名な小説『クリスマス・キャロル』の主人公にちなんで名づけられたもので、人は死を意識すると、善行を積みたくなるというもの。
この効果の証明を、ドイツのルードヴィッヒ・マクシミリアン大学のエヴァ・ジョーナスがしています。テストは通行人に10個のチャリティー活動について、どれだけ有益か1点~10点で評価してもらうもの。ただし場所は2つに分けました。1つは葬儀場の前、もう1つはそこから150メートル離れたところで行ったのです。
結果、葬儀場の前では平均50.75点、離れた場所では平均43.93点だったのです。ほとんど同じ地域の調査なのに、これだけ違いがでたのは、葬儀場の前でアンケートを受けた人が死を意識したからだと考察されています。
死を考えてから社会貢献に目覚めるといった行動は、皆さんも聞いたことがあるかもしれませんね。「死について考える授業」などを生徒に実施する学校もあるようです。近年では入棺体験など、死について真剣に考える大人を対象としたイベントや講演があります。より正しく生きようとするためのきっかけとして、出かけてみるのもいいかもしれませんね。
②幽霊や神様を意識する
死を意識するのではなく、幽霊を意識すると悪事をしにくくなるという研究結果もあります。
実験したのは、米国アーカンソー大学のジェシー・べリングです。
実験参加者にコンピュータで問題を解いてもらいます。ただプログラムのバグで、たまに正解が表示されることがあること。そうなったらスペースキーを、すぐに押して正解を消してほしいと伝えました。
そしてスペースキーを押すまでの時間を測ったのです。カンニングしてから押すのか、正解が出てすぐに押すのかを確かめるためでした。そして1つのグループには、「この実験室は、かつて突然死した学生の幽霊がいるといわれていますが、あまり気にせずに」と伝えました。
結果、幽霊のことを伝えたグループの平均は約4秒でスペースキーを押し、そうではないグループの人達は平均7秒でスペースキーを押したのです。
これは「神様が見ている」とか、「お天道様が見ている」と言われたときの心理と同じようなものだそうです。人間でなくても、誰かが見ていると思うと、人は不正を働かなくなるようようです。
「因果応報、お天道様は見逃さない」。今ではあまり聞くこともなくなった考え方も、人を正直にする可能性がありそうです。
③明るい場所で
真っ暗な夜に犯罪が横行することは、よく知られています。しかしちょっと暗いといった状況でも、人の行動が変化するのを知っていますか?
カナダのトロント大学のチェン・チョンは、数学の問題を解き、自己採点して、正解数に合わせて封筒からお金を抜いていく実験をしました。つまりいくらでも不正ができる状況で、封筒からすきなだけお金を抜き取れる状況を整えたのです。
その上で、1つのグループは蛍光灯が12本ついた部屋で実験し、もう1つのグループは蛍光灯を4本しかつけない部屋で実験しました。結果、明るい部屋では平均7.78問解けたと採点し、暗い部屋の人は平均11.47問解けたと採点したのです。
金額にすると、1.85ドル暗い部屋の人が明るい部屋の人より多くもらったことになるそうです。
またこのテストの後に、本人達から正解の水増しの有無を質問すると、暗い部屋では60.5%の人が、明るい部屋では24.4%の人が水増ししたと答えたそうです。
つまり証明を明るくするだけで、人は正直になるというわけです。
不正をさせないためには、監視が重要と考える人も多いでしょう。
しかし死について考えたり、幽霊や神様を意識したり、明るい場所で活動させるだけでも、人は善良になることが心理学で証明されているのです。嘘ばかりつく人や、意地悪な人の行動を変えるのに、こうした知識は役立つかもしれませんね。
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監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:『世界最先端の研究が教える もっとすごい心理学』(内藤誼人/総合法令出版)