「人間関係リセット症候群」という言葉を知っていますか? 2022年11月にネットなどでバズったものです。SNSの連絡先やアカウントを一方的に消したりして連絡を絶ってしまう行動の裏に、どんな心理が働いているのか調べました。
- 「人間関係断捨離」とは違う「人間関係リセット症候群」
- SNS疲れが原因!?
- 社会が変わった
- 人間関係を切られたら?
- 「人間関係リセット症候群」の衝動に駆られたら?
「人間関係断捨離」とは違う「人間関係リセット症候群」
2022年11月、「人間関係リセット症候群」という言葉がSNSを中心に注目を集めました。それはSNSの連絡先やアカウントを一方的に消したりして連絡を絶ってしまう行動のこと。環境や人間関係をリセットするため、転職する人もいるそうです。
過去の自分をリセットするといった行動自体は珍しくありません。「大学デビュー」は、これまでにない環境で新しい自分をつくり上げようとする試みでしょう。上京したときに、人間関係が新しくなり、地元の友人と連絡を取らなくなるといったことも起こるでしょう。
しかし、こうしたことは環境の変化によってリセットが起きたもので、リセットそのものを目的としたわけではありません。
また不快だったり、不必要だったりする人間関係を絶つといった行動もあります。例えば中高年の間で話題になった「人間関係断捨離」などは、その一例でしょう。有限な時間をしっかり使うためにも、不必要な人間関係は捨てていこうという動きです。
ただ、こうした行動も「人間関係リセット症候群」とは内容が大きく異なります。「人間関係断捨離」は選別をして人間関係を絞っていくのに、「人間関係リセット症候群」はほぼ一斉に人間関係を絶ちます。しかも少しずつ距離を置くといった方法をとらず、ある日いきなり音信不通といった状態になります。「人間関係断捨離」が穏便に疎遠になるのを目指すのとは、全く逆の行動です。
SNS疲れが原因!?
こうした行動の背景として、成蹊大学の高橋暁子客員教授は、「ある日突然、SNSから”消えて”音信不通に…『人間関係リセット症候群』を患う若者がジワジワと増えるワケ」で、以下の2点を指摘しています。
・若者はSNSだけでつながっているケースも多く人間関係がリセットしやすい
・コロナ禍で、SNSやオンラインだけで交流する相手が増えて疲れることが多くなった
2019年に全国20~60代男女を対象に実施された「SNS疲れに関するアンケート調査」では、SNS疲れの経験がある人は、20代女性が65.0%と頭一つ抜け出しています。2位が40代女性の54.0%、この2つ以外は40%代なので、かなり際立った数字だとわかるでしょう。
「人間関係リセット症候群」の記事でインタビューに答えている多くが若い女性であることからも、SNS疲れが背景にあることを予感させます。
またSNS疲れを経験した3割が、「利用中止/退会を経験した」という結果もあります。SNSそのものを続けることが苦痛になることは、意外にあるのかもしれません。
またSNSの使い方が、若い人と中高年では違うことも「人間関係リセット症候群」を理解する一つのポイントになるかもしれません。というのも若者にとってのSNSは、自身の履歴書と同じ役割を果たしていると、SNSの取材で話しているからです。
それは所属や趣味趣向だけではなく、友人関係もチェックの対象となり、自分の合わないタイプの人がSNSのメンバーにいたら警戒するといったことも起こります。投稿に反応するといった人間関係の維持だけではなく、対外的なアピールを考えたデータの整理といったことを日々こなしていると考えれば、SNSを中心とした人間関係をリセットしたいといった要求が出てくるのも当然かもしれません。
社会が変わった
じつは社会の仕組みそのものが、「人間関係リセット症候群」を後押ししているという見方もあります。社会学者は「ソリッド・モダニティ」(液状化する社会)という見方を発表しています。既存の秩序がなし崩し的に解体していく不確実な社会を指しますが、もう終身雇用制のような安定的な会社も、それに付随するような人間関係からも、住む地域を離れられないことで切れない人間関係からも、私たちは自由になりつつあります。連絡を絶ったら、以前のように自宅に人が訪ねてくるといったことがない社会になったことで、人間関係リセットは、どんどんしやすくなっているのでしょう。
ただこうした行動は、自分が困ったときのセーフティーネットを失うことにも繋がります。実際、ホームレス問題は、経済だけが原因ではありません。人とのかかわりがなかったことも原因の一つといわれています。
所属するコミュニティーの大切さは、自分の状況が悪化したときにこそ感じるものです。「人間関係リセット症候群」がクセになっているひとは、そのリスクを考えた方がいいかもしれませんね。
人間関係を切られたら?
「人間関係リセット症候群」で関係を切られた人の中には傷ついたと感じる人もいるでしょう。人間関係をリセットした本人が、別のコミュニケティで楽しそうにしている姿が、SNSなどを通して伝わってきたりすればなおさらでしょう。
しかし衝動的な側面もあり、その人が嫌いだから関係性を絶ったのではなく、疲れたからすべてを切ったケースも多いので、自身を責めないようにしましょう。また無理に関係の継続を望んでも、うまくいかないケースも多いでしょう。
あたたかく見守り、ひょんなことで連絡があったら話してみる。そんな対応がいいのかもしれません。
「人間関係リセット症候群」の衝動に駆られたら?
「人間関係リセット症候群」の衝動が起きた場合は、まず自分が何に疲れているのかを考えましょう。もしかすると仕事内容に疲れているだけかもしれません。そうであれば旧友までリセットする必要はないでしょう。
またSNSとのかかわり方を変えるという方法もあります。さまざまな更新の頻度を下げ、他の人の投稿への反応も控えるといったことで、もう少しゆったりとSNSにかかわってみましょう。人間関係をリセットしなくても、無理なく維持できるかもしれません。
実際に人に会って相談することで、人間関係のリセットについて感じ方が変わるかもしれません。SNSの中だけで維持してきた人間関係と実際に会って築いてきた人間関係は、関わり方が少し違ってきます。そうした違いを確かめるのもいいのかもしれませんね。
今回は昨年から話題になっている「人間関係リセット症候群」について解説しました。
心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:「ある日突然、SNSから”消えて”音信不通に…『人間関係リセット症候群』を患う若者がジワジワと増えるワケ」(高橋暁子/プレジデントオンライン)