何となくの不快感からついつい避けてしまう。そんな行動が、私たちの日常生活に悪影響を与えているかもしれません。不快感や不安感を回避が原因の悪影響と、その対処法をまとめました。
- こんな行動があるときは要注意
- 人間とシマウマのストレスの違い
- 逃げると脅威が増幅する
- 5つの対策
こんな行動があるときは要注意
何となくイヤなこと避けてしまう。それは誰にでもあることでしょう。庭の草むしりや押し入れの掃除など、ちょっと面倒だと感じる物事は避けてしまうことは、ままあることです。
しかし一部の回避行動は、深刻化するケースがあります。
ハーバード大学医学部のルアナ・マルケス准教授は、注意すべき回避行動を、次のようにリスト化しています。
・相手の話をいきなり遮ってしまう
・SNSで相手をすぐにブロックする
・不安感から吟味せずにすぐにメールを返信する
・気まぐれに仕事を辞める
・問題解決の方法を探らずに騒ぎ立てる
また、このほかにも先延ばしが常態化しているケースなども、不安や不快感の回避によって問題がこじれているケースです。
上記に共通するのは、問題に対峙せず、とにかく目に入らないように逃げてしまうこと。こうした行動によって一時的に安心感を得ますが、より大きな問題となって襲い掛かってくるケースがけっこうあるのです。
では、どうして人は、こんな行動をとってしまうのでしょうか?
人間とシマウマのストレスの違い
人が不安を感じるのは、とても自然なことです。太古の昔から不安は安全を確保するためのアラームのようなものであり、そのアラームに的確に対処できた先祖が生き残ってきたのです。
ただ進化にともない不安のあり方が変化して、人類が対処しにくい形となっています。シマウマと人間の不安の違いを研究種したスタンフォード大学のロバート・サポルスキー博士は、シマウマのストレスは強度が強い代わりに短期的だと指摘します。たしかにライオンに追われているシマウマのストレスは、生きるか死ぬかといったかなり強度の高いものですが、数分間逃げ切ればストレスもなくなります。
一方人間のストレスは持続的です。ずっと先の締切り、いつ人事異動があるかわからない中での職場のツライ人間関係などなど。生きるか死ぬかといった問題ではないものの、数分でストレスから解放されるあけでもありません。
だからこそ人は、ストレスからくる不快感や不安感とうまく付き合う必要があるのです。
逃げると脅威が増幅する
ストレス反応として有名なのが、闘争・逃走反応です。これは恐怖に対して闘うか逃げるかという2つの対処法に合わせた身体の反応です。心拍数が上がり、呼吸が速くなり、汗が噴き出しといったことが起こります。野生動物が命の危険に遭遇した時の反応と同じです。
ストレスの対象から逃げること自体は、文明を持っていなかった時代には正しい行為でした。現在でもジャングルの中で猛獣に出会ってしまったら、ほとんどの人が、闘うか逃げるかを選択するしか方法がないでしょう。
ただ現代の社会生活では、逃げることが問題をこじれさせる原因となってしまいがちです。例えば自分の成長に不安を感じているビジネスパーソンが、能力的に対処できるか不安だと感じる仕事を先延ばししてしまったり、同僚からそうした仕事について振られると、答えることを避けるように話を遮ってしまったりします。また本来ならしっかりと考えてメールすべきなのに、その問題を考察することがイヤで、よく考えもせずに返信してしまうといった具合です。
こうした行動が、より問題を複雑化させてしまいがちです。
というのも継続的な不安や不快感から逃げると、脅威が増幅されてしまう可能性があるからです。妙な表現ですが、先延ばししたからこそ、より不安が大きくなってしまって手を付けることができないといったことが起きてしまいます。
もちろん現代でも、何も考えず不快感や不安から走って逃げるのがよいケースもあります。しかし多くの場合、不快感や不安感を持ったら、遠ざかるのではなく逆に問題に近づく方が解決への近道となります。
5つの対策
それでは、不快や不安を感じたときの対処法を書いていきましょう。
①原因を考える
不安や不快を感じる原因を、逃げる前に考えてみましょう。それはもしかすると、とても些細なことかもしれません。例えば前回の仕事でミスをしたから、ちょっとおっくうだと感じたからかもしれません。
じつは原因を考えている時点で、どうして自分が逃げているのか不思議に感じることも多いかもしれません。現実に直面したくなくて逃げ回っていると、いつの間にか現実に対処することが難しいように感じてしまうだからです。「よく考えたら寝起きで面倒くさかっただけなのに、どうして取り掛かるのが怖くなっているんだろう?」といった疑問や違和感が、原因を考えることで生まれるかもしれません。
②不安や不快を1~10の数字で測る
1が平静、10をパニックとしたとき、その不安や不快の程度はどれぐらいでしょうか? 自分の感情を数字で表します。たとえ手がけるのがイヤだと思っている仕事であっても、不快度を数値化してみると意外に高くないこともあります。なんでそんなに嫌がっているんだろうと逆に考えてしまうときもあるでしょう。
③自分が信じているストーリーをチェックしてみる
不安や不快の多くは、将来的な問題を想像しています。これをしたら失敗する、一緒に仕事をする人にマウントを取られる、バカにされるなどなど。不安や不快の元になっている未来を含めたストーリーを、しっかりと考えてみましょう。
自分が対峙したくないと思っている現実は、将来的にどんな問題を引き起こし、どのようなに発展してしまうのか、自分が思い描いている悲劇的なストーリーを、改めてチェックしてみましょう。
④未来の脅威は現実的かを考える
本当に心配しているような問題が起きるのかを考えてみると、意外なほど可能性が低いといったケースがほとんどでしょう。例えば、この仕事は得意じゃないから終わったときに周りからバカにされると思い込んでいたとしましょう。しかし、その仕事がそれほど大切だと周りが感じていないなら、仕事の結果にも無関心でしょう。バカにする興味すらわかないかもしれません。あるいは自身の成功のイメージが高すぎて、自分では失敗だと感じても周りは問題にしないといったケースもあるかもしれません。
自分の思い描く悲惨な未来が、現実として起こるのかを考えるのは、回避行動を改めて考えるのに有効です。
⑤本当に脅威なときの対策を考える
④で考えた悲惨な未来が現実化しそうであれば、その対策を立てましょう。
じつは現実を回避しようとする人の多くは、現実的な対策を講じることなく、逃げ出してしまいがちです。問題が起きそうなら素早く対処した方がいいですし、問題が起きないならムダな心配に心痛める必要はなくなります。
今日は不快や不安を回避することで起きる問題と、その対処法についてまとめました。
結局のところ現実を直視せず逃げ出すことで、簡単に対処できた問題を複雑化してしまうケースが多いようです。毒蛇や猛獣を見つけて逃げ出したなら、それが見間違いだったとしても大きな問題にならないでしょう。しかし逃げ出しても危機が継続している現在のような状態だと、逃げること自体が問題になってしまうというわけです。
現実逃避が続いているなと思ったら、ぜひ試してみてください。
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監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:「What Is Psychological Avoidance?」(Luana Marques Ph.D./Psychology Today)/「Dismantling Reactive Avoidance: Facing Anxiety Head-On」(Luana Marques Ph.D./Psychology Today)