「え、この場面で、そんなこと言っちゃうの?」
場を凍らせるようなことを平気で言ってしまう人がいます。そしてもし上司がそんな人だったら……。今回はそんな人の心理を考えてみましょう。
- 自己モニタリングができない人たち
- 上司の場合
自己モニタリングができない人たち
たとえば職場の仲間のご両親が亡くなったとしましょう。常識的にはお悔やみの言葉や、そっとしておいてあげる、といった対応が普通です。でもそんな時、
「この忙しい時期に亡くなるなんてねえ……」
と噴飯ものの一言を発する人がいます。たとえもしそう思ったとしても、口には出さないのが大人の対応というものですが、そうした回路がプツンと切れているこのタイプの人は、自分の言うことが周囲にどう思われるか。それがどんな影響を与えるか。それがまったく意識できていないのです。
心理学者のマーク・スナイダーは、こうした状況を説明するために、”自己モニタリング”という概念を提唱しています。自己モニタリングとは、自分の周囲の反応を観察しつつ、自らの言動や行動を調整することを指します。
子どもは主に親の反応を見て自分の行動を調整していきます。ご飯の時、机の上のお味噌汁をこぼしてしまった。お母さんがイヤな顔をしたり、ため息をついたり怒ったりするのを見て、子どもは次からは同じことをしないように自らの行動を改善していきます。
あるいは職場のある人が、ずうずうしい発言をして周りの人の気分を害している。そうした状況を見て、「ああいうことは言わないようにしよう」、と自分の行動を調整していく。これこそ自己モニタリングが有効に機能している人の行動です。
しかし自己モニタリングの機能が弱い人は、こうした観察と行動調整がうまくできません。自分のすることが、ある環境の中で、どんな影響を及ぼし、どう見られるか、ということに関心が無いためです。その結果、人を傷つけたりチームの雰囲気を壊したりすることになりますが、そのことにも気づかないのです。
逆に自己モニタリングの機能が強すぎる人は、人からどう見られるのか、思われるのかを気にしすぎるため、思ったことが外に出せず、ストレスを抱え込みやすい傾向があります。適度な自己モニタリングは、社会生活を潤滑に営むために必要な機能なのです。
上司の場合
もしこういうタイプの人が職場の上司だとしたら、どう対応したらいいのでしょうか。
上司という立場は、部下の仕事を観察して、適切な判断やアドバイスをしながらチームをまとめる役割です。でも自己モニタリングができず、部下の気持ちやチームの雰囲気に関心が無いと、上の立場からの横暴な力として表現されてしまいます。
上司の横暴は、自己モニタリングの欠如だけが原因ではありません。そのメカニズムを説明するために、心理学者ダラードとミラーは、欲求の充足を阻止されることでフラストレーションが溜まり、攻撃衝動につながるという、「欲求不満―攻撃仮説」を提唱しています。
禁煙やダイエットをしている人がちょっとイライラしている姿などを見たことがある人もいらっしゃるかもしれません。欲求を阻害するものとしてはいくつかの要素が考えられます、暑い、眠い、空腹といった生理的な不満。失恋や仲間はずれなどの他人からくるもの。失業や貧困といった社会状況。こうした原因でやりたいことができないことが、攻撃性につながるというのです。
横暴な上司も、こうした欲求を阻害する状況にあるのかもしれません。身体の不調があるのかもしれませんし、家庭の不和が原因かもしれません。あるいは会社からのプレッシャーが強すぎることも考えられます。
部下としてはけっこうな迷惑ではありますが、上司もそうした欲求の不満を抱えているのかもしれない、と考えれば少しは多目に見てあげられるかもしれません。
そして欲求不満による攻撃性は、自分の中にもあるかもしれません。気づかないうちに不満が溜まり、外に攻撃的な発言や態度として出ていないか、注意してみましょう。不満の原因が見つかれば、それに対処することが望ましいことは言うまでもありませんし、それが難しい、あるいは原因がわからないときは、とりあえずストレス発散をすることです。スポーツでもサウナに行くことでも構いません。自分なりのストレス発散のパターンを持っておくことは、社会人としても大事なサバイバル術と言えるでしょう。
人間関係への心理学の活用に興味のある方は、こちらもご覧ください。
参考:『ビジネス心理学大全』(榎本博明/日本経済新聞社)