睡眠が健康に大きな影響を与えることは、よく知られています。しかし近年の研究で、睡眠時間はもっと意外なことに影響を与えていることがわかったのです。今日は意外な睡眠の影響についてまとめてみました。
- 睡眠時間を考え直す契機に?
- 利己的になり他人を助けなくなる
- 収入に影響する
- 記憶力の向上に影響
睡眠時間を考え直す契機に?
睡眠時間が少なくなると寿命が短くなり、メンタルヘルス不調になる可能性が高まる。こうした睡眠の影響なら聞いたことがある人も多いでしょう。
しかし近年の研究は睡眠時間が、人にもっとさまざまな影響を与えていることがわかってきています。その中には、睡眠時間を削って働いたり、勉強したり、遊んだりすることを考え直した方が良いのではと思ってしまうような研究成果もあります。
世界でもトップクラスに睡眠時間の少ない日本人ですが、睡眠の重要性を改めて考えるべき時期にきているのかもしれません。そこで、睡眠時間の不足が人に与える影響を調べてみました。
利己的になり他人を助けなくなる
睡眠不足によって脳の社会的認知ネットワークと呼ばれる領域の活動が活性化しにくいことはわかっていました。このネットワークは他人の感情を理解し、共感するための領域なので、寝不足が人間関係に何らかの影響を及ぼすことは予想されていたのです。
そして米国カリフォルニア大学バークレー校の研究チームによって、寝不足と親切な行動との関係を調べました。その結果、寝不足になると人は利己的な行動をとることがわかったのです。
また調査の一つには、寄付と睡眠時間の関係の検証がありました。寄付の金額がサマータイム(夏時間)によって、どのように変わるのか調べたのです。結果、サマータイムで、それまでの生活スタイルから1時間ほど早く活動しなければいけなくなると、10%も寄付金の額が低下していたのです。たった1時間の睡眠時間の不足が、寄付を10%も下げたことに、研究者も驚いたようです。
また、サマータイムを採用していない州で調査した結果、寄付額の減少がなかったことが確認されました。いつも通り寝ている人は、いつも通り寄付していたということでしょう。
どうも最近、人に優しくできないと思ったら、1時間でも睡眠時間を増やしてみるといいでしょう。寝不足だけどイライラするといった自覚症状がない人でも、人に優しくできない心持ちになっているのかもしれません。
収入に影響する
エコノミストのマシュー・ギブソンとフリー・シュレーダーの調査によれば、平均して睡眠時間が多いほど収入も多くなるそうです。1時間の睡眠時間の違いで4~5%も収入が違うのは、かなり衝撃的ではないだろうか?
年収400万円であれば、20万円も収入がアップすることになるのです。年間20万円といえば月1万6000円以上。そんな副業を見つけるのは、簡単なことではありません。しかし統計からみれば、1時間睡眠を増やしただけで年収アップを実現できるのです。
残念ながら、どうしてこのようなことが起きるのかは、この実験からはわかりません。しかし集中力、ミスの量、あるいは先程触れたような人間関係に関連すると考えれば、賃金と睡眠時間が関連性を持っていても不思議はないでしょう。
記憶力の向上に影響
記憶力と睡眠の関係はかなり研究が進んでおり、深いノンレム睡眠の時間が長いほど、翌朝の記憶力のテストの成績がいいことがわかっています。これは短期記憶として収まっている記憶を整理して、長期記憶の場所に収める作業がノンレム睡眠中に行われているからだそうです。
つまり睡眠時間をしっかり取らないで記憶すると、短期記憶を収める場所が空かないし、短期記憶が長期記憶にならないという問題が発生してしますのです。
しかも近年の研究では、ノンレム睡眠中に睡眠を深めるために、脳波に合わせてメトロノームのような音をリズムよく聴かせると、翌朝の記憶力のテストが40%も上昇していたのです。残念ながら、脳波に合わせて脳を刺激するのは簡単ではなく、研究を実生活で再現するのは容易ではないようです。
ただ、ノンレム睡眠をしっかり取れるように工夫することが、記憶力の向上につながることは確実にわかりました。
さらにノンレム睡眠中に記憶する事柄と関係のある音声を流すと、音を流した記憶だけしっかりと思い出せるといったことも判明しました。この実験では、もともと音と絵を関連づけて覚えさせ、ノンレム睡眠のときに音声だけ流しました。結果、ノンレム睡眠中に聞いた音と関連付けらえた絵だけ思い出したのだそうです。
起きているときに学習し、ノンレム睡眠のときに講義の音声を流すといった睡眠学習も、うまくすると効果があるかもしれませんね。
今後、睡眠と記憶力の関係がさらに明らかになり、記憶力をよくする器具などが開発されるかもしれませんが、現状でも深いノンレム睡眠を確保するために努力することで、通常以上の記憶力を手に入れられるかもしれません。
今日は睡眠の意外な影響についてまとめてみました。そろそろ暑さも一段落し、寝やすくなってきます。しっかり睡眠時間を確保しましょう。
人の心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:『睡眠こそ最強の解決策である』(マシュー・ウォーカー/SBクリエイティブ)/「A lack of sleep makes us less willing to help others ? and this could spell big trouble in the long run」(Mihai Andrei/ZME SCIENCE)