経済環境が苦しくなると、金銭交渉もシビアになることが少なくないでしょう。そんな金銭交渉で負けないためのルールを紹介します。心理学が教える意外なポイントです。
心理学は金銭交渉も研究対象
金銭交渉はいつもスムーズにいくとは限りません。限られた利益を配分するのですから、互いに簡単に譲れないのも当然でしょう。またビジネスが続くことを考えれば、「もう一緒に仕事したくない」と相手に思わせるのも避けたいものです。
そうしたさまざまな思惑が絡まり合いながら交渉は進んでいきます。だからこそ交渉に影響を与える心理についても、いろいろな研究が行われています。そうした実験の中から使いやすい3つのルールを紹介しましょう。
①相手を笑わせる
シビアな交渉となれば、ついつい力が入り過ぎてしますものです。しかし相手に譲歩を迫るなら、真剣に“直球”を投げ込むだけではなく、ちょっとした冗談を交えることも重要です。
米国カンザス大学のカレン・オークイン氏は、疑似的な絵画取引の心理実験を行いました。実験参加者は買い手として参加します。最後、1つのグループでは売り手が「私の最終的な提案は○○ドルです」と語り、もう1つグループは「これが私の最終的な提案です。ついでに私のペットのカエルをお付けしますよ」と言います。
いわゆるアメリカンジョークです。
この冗談が日本でウケるのかどうかはともかく、冗談を言ったグループでは53%の人が値段を譲歩してくれたのです。一方、冗談を言わなかったグループで譲歩してくれた人は45%という結果でした。最後にジョークを添えるだけで8%も差が出たというわけです。
どうやら笑わせることで、「今回は譲ってやるか」といった気分になったようです。
シビアな交渉だからこそ、相手を笑わせ、和やかに交渉を進めることが金銭交渉を有利に進める方法の1つのようです。
②細かな数字を示す
米国コロンビア大学のマリア・メイソン氏は、宝石の買い入れを仮想交渉する実験を行いました。実験参加者は宝石店の店主となり、お客から宝石を買い取ります。お客は「19ドル」「20ドル」「21ドル」と3つの買い取り価格を提示します。すると店主は、「20ドル」を提示したお客の宝石を、「19ドル」や「21ドル」を提示した客より買い叩いたのです。
これはキリの良い数字を提示した人を、くみしやすい相手だと認識した結果だそうです。値段は根拠があるものなので、キリの良い数字を示すことが専門知識の無さを表しているように感じてしまうのです。
結果、強く押せば譲歩するだろうという圧力を相手がかけてくるとのこと。
金銭交渉するときは、なるべく細かな数字を提案するようにしましょう。相手が「細かく計算して出してきた金額だ」と感じれば、その分だけ値下げ交渉の圧力は下がるようです。
③金銭以外の優先順位を明らかにする
ビジネスの金銭交渉の多くは、金額以外のサービスについても話し合います。そして金銭以上に付帯サービスの優先順位が高いことがも少なくありません。
例えば機械のメンテナンスを24時間受けることが一番重要な企業では、そのサービスのためなら多少の値上げを問題にしないというのなら、値段交渉よりもサービスの充実度について話し合うべきでしょう。
こうした優先順位を互いに理解できれば、譲歩できないポイントと譲歩できるポイントがハッキリします。ところが多くの金銭交渉では自分の手の内を明らかにしないのに、互いの立場を理解したと思いがちだ、とグレブ・ツィプルスキー博士は説明しています。
だからこそ交渉が行き詰まったと感じたなら、自分たちの優先順位を明らかにし、相手の優先順位についてたずねてみるのも方法の一つでしょう。
互いを警戒して情報を開示しなければ、交渉のポイントが明確になりません。しかも交渉が難航している理由が、優先順位を明らかにしない互いの交渉姿勢にあると思わないので相手を責めがちです。
金銭交渉で陥りがちな、このような心理を知っていれば、堂々巡りを続ける交渉の解決の糸口をみつけられるかもしれません。
今日は金銭交渉についてまとめてみました。
使えそうなルールは見つかりましたか?
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参考:「How to Win at Negotiations」(Gleb Tsipursky,Ph.D/『Psychology Today』/『世界最先端の研究が教える もっとすごい心理学』(内藤誼人/総合法令出版)