先が見えなくて不安になるといったことは、誰にでも起こるでしょう。合理的な解決がかなわない、袋小路に陥ったときにこそ活用したい能力があります。それが「ネガティブ・ケイパビリティ」。一体どんな能力なのかをまとめてみました。
- 答えの出ない状況に耐える
- 困難な時代にこそ
- ネガティブ・ケイパビリティがもたらす3つのメリット
- ネガティブ・ケイパビリティという能力の身の付け方
答えの出ない状況に耐える
どうにも先が見えないと感じることはあります。人間関係にまつわる問題では、合理的な解決法が役に立たないことも多いのではないでしょうか。また予想もしないトラブルに見舞われて、どうにも手の打ちようがないと感じることもあるかもしれません。
そんなときに活用したいのが、「ネガティブ・ケイパビリティ」です。
ネガティブ・ケイパビリティは、「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」だと、作家で医師の帚木蓬生さん説明しています。
人は理解できない状況に陥ると、その原因を探ろうとします。そして早急に問題を解決しようとします。しかし多くの物事は、それほど単純ではありません。解決できない宙ぶらりんの状態に耐え、迷いながら正解を探していくことが求められるケースも少なくありません。その宙ぶらりんの状態に耐える能力が、ネガティブ・ケイパビリティなのです。
困難な時代にこそ
ネガティブ・ケイパビリティの対義語が「ポジティブ・ケイパビリティ」です。これは仕事なので、最も求められる能力の一つであり、問題を素早く、的確に処理する能力です。近年、いかに簡単に問題を解決するのかを、多くの人が競ってきました。マニュアルが幅を利かせるようになったのも、こうした傾向と無関係ではありません。
しかし迷うことを拒否すると、本質的な問題は解決しないものです。特に深い人間関係においては、ポジティブ・ケイパビリティが役立たない場面が増えていきます。また今回のようなパンデミックでも、「「何かができる能力」ではなく、「できない状況に耐える能力」が求められます。
その意味でも、ネガティブ・ケイパビリティは、困難な時代にこそ身に付けたい「能力」なのです。
ネガティブ・ケイパビリティがもたらす3つのメリット
グラントヒラリーブレナー医学博士は、ネガティブ・ケイパビリティを身に付けることで多くのプラスがあると指摘しています。そこからいくつかを紹介しましょう。
①感情をコントロールできる
答えの出ない状況に耐えるのは簡単ではありません。だからこそネガティブ・ケイパビリティを磨くことで、困難な状況でも前向きな気持ちを維持することにつながります。また感情のコントロールは、より良いコミュニケ―ションをもたらします。
②理論と理屈だけにとらわれない
理屈のつかないこと、理論的ではないことに寛容になります。自分では理解できないけれど、それもありなのかもと思えるようになるのです。年齢や性別、人種に関係ない多様性が求められる現代社会では、自分たちの理屈だけでは物事が動かないことを認めることも重要です。
また理屈ではなく、感情が問題の本質である場合にも対処できる可能性が高まります。
③創造性と好奇心がアップする
ネガティブ・ケイパビリティという概念を最初に発見したのは、英国の詩人ジョン・キーツでした。作品に必要な言葉を模索し続ける詩人にとって、わからない状態に耐える能力はどうしても必要なものだったことでしょう。
芸術に必要な創造性や、未知なものに挑もうとする好奇心は、ネガティブ・ケイパビリティから生まれるものです。逆に言えば、ネガティブ・ケイパビリティを身に付ければ、創造性や好奇心もアップします。
ネガティブ・ケイパビリティという能力の身の付け方
では、どうすればネガティブ・ケイパビリティを身に付けられるのでしょうか?
そもそもマニュアル化できない能力のため、こうすれば身に付くといった方法論はありません。ただし、能力獲得の一歩がネガティブ・ケイパビリティを知ることなのは間違いないようです。
先の見えない状態に身を置いているときに、ネガティブ・ケイパビリティを鍛えているのだと思うことで、この能力を獲得していきましょう。簡単な解決法に飛びつかず、あきらめず、ベストな方法を探して模索し続ける態度がネガティブ・ケイパビリティをアップすることにも、本質的な問題解決にもつながるのです。
また、理解できない状態に身を置くことために、現代アートなどを見ることを推奨している人もいます。
最近、難解な映画や書籍、わかりにくい芸術作品に接していないと思ったら、現代アート展などに足を運んでみるのもいいかもしれませんね。
困ったときに役立つ心理学の知識に興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:日本産業カウンセラー協会
参考:「Building “Negative Capability” to Unlock Hidden Potential」(Grant Hilary Brenner MD, FAPA/Psychology Today)/『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』(帚木蓬生/朝日新聞出版)