「勇気のある人」「勇敢な人」と聞くとどんな人を思い浮かべますか? 人によって定義はさまざまかもしれません。そこで勇気や勇敢さに関するする心理実験の結果などをまとめてみました。
- もう少しほしいのは「勇気」
- 凶悪犯に立ち向かったのは体の大きな人
- 兵士でも人は撃てない
- ほとんどの人は万引きを通報しない
もう少しほしいのは「勇気」
インターネットを活用したアンケ―ト調査では、「自分にもう少しあったら良いなと思うものは?」という質問のトップが42.8%を占めた「行動力」で、第2位が28.3%の「勇気」でした。その他の項目が「愛情」「思いやり」「健康」「謙虚さ」だったので、一歩を踏み出す行動力とそれを支える勇気が1位と2位だったことは、積極的に動けない自分に不満を感じているともいえるのかもしれません。
アドラー心理学で有名なアルフレッド・アドラーは、「私は自分に価値があると思える時にだけ勇気を持つことができる」と解説しています。自分が誰かに貢献できている、と思える時にだけ勇気を持って一歩が踏みさせるということのようです。もともと持っている性格ではなく、環境によって勇気を持てるのかが違ってくるという視点は納得できる人も多いでしょう。
誰かのためになら頑張れるといったことも、アドラーの勇気と近い気持ちなのかもしれません。
凶悪犯に立ち向かったのは体の大きな人
凶悪犯に立ち向かえる勇気を持った人を調査したのは、米国ペンシルバニア州立大学のデッド・ハストン氏です。彼は凶悪犯に立ち向かって表彰された32人と、年齢の近い一般人を比較しました。その結果、犯人に立ち向かえた人は体格の良い人だったことがわかったのです。さらに立ち向かえた人の62.5%が「人命救助の訓練」を受けた経験があり、「応急措置の訓練」も87.5%が受けたことがあり、「護身術」を学んだ人も53.1%もいたのです。
つまり犯人に負けないと思えたからこそ、立ち向かえたといえそうです。
これは凶悪犯に立ち向かうという緊急事態でなくとも、同じようなことが起こりそうです。仕事などでも自分の能力に自信があり、対処方法を学んでいれば、勇気を持って一歩を踏み出せる可能性が高まるでしょう。
兵士でも人は撃てない
では、訓練できない抵抗感のあることへの一歩は、どれぐらいの人が実行できるのでしょうか?
第二次大戦中の米国のS・L・Aマーシャル陸軍准将によれば、上官が「撃て」と命令しても、敵に向かって発砲できるのは100人中15~20人程度だそうです。ほとんどの人はあらぬ方向に向かって撃ったり、撃ったふりをしてごまかすそうです。
命の危険が迫っても、人は他人の命を奪う一歩はなかなか踏み出せないもののようです。ただし遠くからのミサイル攻撃など、相手の命を目の前で奪うといった行為から遠ざかると、抵抗感は薄らぐことも知られています。
殺人は極端な例ですが、抵抗感をどのように減らすのかといった視点で、行動を考えてみるのも一つの方法かもしれません。
ほとんどの人は万引きを通報しない
他人の犯罪を通報するのも勇気のいることです。面倒くさいことに巻き込まれるかもと思う人も少なくないでしょう。米国ユタ大学のドナ・ゲルファンド氏は、わざと目立つように万引きをして、見ていた人が通報したかを調査しました。
結果、男性は38%、女性は19%しか通報しませんでした。近年、犯罪行為を注意したことで事件に巻き込まれるといったことも増えており、より人々が慎重になっているのかもしれません。軽い犯罪は見ないふりをするのが、一般的になっているのかもしれません。
残念ながら、この研究では通報に動き出す方法は発見されていません。しかし事件が起きたとき、自分以外に傍観者がいると率先して行動を起こさなくなる「傍観者効果」といったものも知られています。ラットの実験でも「傍観者効果」は確認されており、周囲が無関心だと、より傍観して助けなくなるといったこともわかっています。
犯罪の通報は恐怖もあり、なかなか改善しないかもしれません。しかし困っている人を傍観しないという姿勢が、自分の回りの「傍観者効果」を下げる可能性があることは覚えておきたいところです。
今日は行動を起こす勇気に関連するトピックスを集めてみました。結果的に見れば、勇気を高めようと努力するよりも、特定の行動を踏み出せるように準備をする方が勇気ある一歩を踏み出せそうですね。
人の心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:『世界最先端の研究が教える もっとすごい心理学』(内藤誼人/総合法令出版)